精進料理紀行(藤岡良)
精進料理紀行
藤岡良 著 Amazonで購入 |
日本中の精進料理が頂けるお寺で食べ歩いた著者が、そのレポートをつづった本です。キーワードは『スローライフ・スローフード』。あまりにも時間の流れが速くなりすぎた現代社会において、もう一度本来の生き方を取り戻そうというのが、本書の大きなテーマです。
ただそのテーマは冒頭の一部でしか語られていません。後はひたすらに東北から九州まで日本を縦断するように、お寺で食べた精進料理の感想が述べられています。
紹介されているのは全部で96ヶ寺。それぞれについて、出てきた料理、おすすめの一品、調理に使われた食材やその調理法から、食事中に交わされたお寺の方との会話、精進料理を作る上での目標や心構えなど、人とのふれあいを通した精進料理の素顔が語られています。
精進料理は肉や魚、五葷と呼ばれる臭いの強い植物(ニンニク、ニラ等)を使用しない料理です。それだけに淡泊になりがちな味に数々の工夫が凝らされ、時には山野に分け入り旬の食材を探し、ダシ一つ取るのにも一日、二日と時間がかけられます。
究極のスローフード。著者はそんな言葉で表していますが、じっくりと丁寧に調理されているからこそ、頂ける味が精進料理にはあります。
昨今の健康ブームを取りあげるまでもなく、野菜中心の食事は栄養バランスにも優れ、食材の最後の一片まで使い切る姿勢には、命に対する畏敬さえ芽生えてきます。
少し文章が回りくどくてたまに読みにくさを感じたり、お寺へのアクセス方法が不親切なところがあるなど、幾つか不満な点もありましたが、そんな些細なことを吹き飛ばす情報量と著者の熱意は、読む者に憧れを抱かせてくれる、素敵な一冊となっています。
あなたもこの本を片手に、お寺の精進料理を頂いてみてはいかがでしょうか。