謡曲『鉄輪（かなわ）』に出てくる井戸です。その嫉妬深さから男に捨てられた女性が貴船へ「丑の刻詣り」をし、鬼と化して夫と後妻を呪い殺そうとしたが陰陽師安倍晴明に阻まれ、女はこの井戸に身を投げたというものです。鉄輪（かなわ）とは鉄の輪に足が付いたヤカンなどを乗せて湯を湧かす道具ですが、「丑の刻詣り」ではこの鉄輪にロウソクを結びつけ、火をつけて頭に乗せるそうです。

　このような伝説からこの井戸は「縁切りの井戸」として、水を汲んで相手に飲ませると悪縁が切れると信じられています。

　五条駅から歩いて路地に入ったところにあります。入り口は隣り合った建物の間を縫うような、とても狭い通路です。ただ正面に「鐵輪跡」と刻まれた碑があるので、目印にすると分かりやすいです。

　その通路に入っていくと、朱色の鳥居があります。そしてそのすぐそばに井戸がありました。ただ現在は地下鉄工事などの影響もあり、水は枯れています。このため縁切りにはこちらの井戸の水を用いられていましたが、今はペットボトルなどに入れて持参した水を一度お供えして祈り、持ち帰っていく人もいるそうです。